【📝特集】大手小売・薬局の臨床試験参入戦略
(Healthcare Huddle参照)
最近話題なのは、CVS, Walgreens, Walmartなどの大手小売・薬局による臨床試験業界への参入。いずれもヘルスケア事業に参入して何年か経過しており、独自のネットワークを活用し集めた多様な患者層のデータやアクセスをいかに臨床試験に活用していくか注目されています。
現状、多くの臨床試験は患者リクルーティングに非常に苦労しています。
・臨床試験の80%近くが予定通り終わらず、そのうち20%は6か月以上遅れている
・臨床試験に参加する患者の約30%が途中で脱落し、85%の臨床試験で十分な患者数を維持できていない
米国製薬企業の研究予算の 40%近くは臨床試験に使われていると言われており、患者リクルーティングの市場規模は2021年時点で$ 3.63 billion、2030年には$ 5.45 billionに達すると予想されています。患者リクルーティングを通じて製薬企業から多額の報酬を得られることが、大手小売・薬局が全米に構える店舗を活かして臨床試験業界へ参入することを後押ししています。
また、20%の薬剤が人種によって反応が異なるものの臨床試験の参加者は75%以上白人であること、米国の人口の4%しか臨床試験に参加できていないという数字に代表されるよう、臨床試験における”data gap”は近年盛んに議論されてきました。市場に出てくる薬剤の大半が、実際の人口構成が反映されていない臨床試験の結果なのです。そんな中、特に米国では2022年4月にFDAが臨床試験に多様な人種を含むように推奨するガイドラインが発表されたこともあり、各プレイヤーがこのgapを解消するために新たな取り組みを推進しています。
CVS、Walgreens、Walmartがいずれも力を入れているのは
①患者リクルーティングの最適化
②Decentralized臨床試験の実施支援
③リアルワールドエビデンスの構築
の3つの軸です。特に①②については、いずれの大手小売・薬局も全米の人口の80%以上が店舗10-15km圏内に住んでいるという幅広いリーチを生かして、臨床試験を地域医療の中に取り入れるという試みをしています。特に、お年寄り、郊外に住んでいる方、女性、マイノリティなど、これまで臨床試験へのアクセスが限られていた人々にも参加してもらうことで、よりリアルな人口構造に近いデータを集め、全人口に効果的な薬の開発を促すことを目的としています。
各社の特色は下記に少しずつご紹介:
💊CVS Health (店舗数約10,000):
事業の発端はコロナ禍にCOVID-19関係の臨床試験でCVSのネットワーク内の30万人のボランティアと製薬企業を繋いだこと。
彼らの調査によると、68%の患者さんが医師より薬剤師から臨床試験を紹介されたいと回答したとのことで、日本でも薬局と臨床試験が連携する可能性について検討するにあたって示唆に富んだ結果となっています。 こちらの記事が詳しいので細かく知りたい方はぜひご覧ください。
💊Walgreens (店舗数約9,000):
パートナーシップを結んでいるヘルスデータプラットフォームPlutoを通して患者さんのデータを適切な臨床試験と繋いでいます。
2021年にプライマリーケアプラットフォームのVillageMDを買収してからより地域に密着したケア提供を推進しており、スタートアップとの連携も注目です。
💊Walmart (店舗数約10,000):
患者のメディカルデータ、保険情報、アポイントメント等を管理するWalmartのモバイルアプリ “My Health Journey”上で、Walmart Healthcare Research Institute (WHRI) が実施している近くの臨床試験を探すことが可能となっており、臨床試験に興味のある患者さんが必要な情報にアクセスしやすい仕組みを提供しています。
去年独自ブランドの低価格インスリンを発表しています。今後糖尿病領域の臨床試験も積極的に取り組む予定なのかもしれませんね。
番外編💊ヘルスケア事業に参入している薬局4社目Rite Aid (店舗数約2,000)とは!?
CVS, Walgreens, Walmartが大手薬局小売のヘルスケア事業の話題では有名ですが、4社目としてRite Aidも見逃せません。2020年から積極的なデジタル化戦略を打ち出しており、ただの薬局ではなく健康管理ハブのような存在を目指しているとのことです。まずは店舗の薬剤師が積極的に顧客との接点を増やして、よりニーズを探索したり、顧客が相談しやすい場作りを進めています。直近ではグーグルと連携してデータを活用した事業展開を始めました。具体的には、ワクチン予約ツール、より良いケアプランを提供するための顧客・店舗のコミュニケーションインフラ、顧客体験改善のためのデータ分析事業、サプライチェーン改善事業、などを検討しているとのことです。
【🔍最近ホットなニュース】
次はビッグテックも蓄積したデータを元に同様に参入するのではないか、と噂です。慢性疾患の患者さんがApple Watchを活用して生活習慣を管理した結果、より健康に良い生活習慣に改善されたり、実際の身体データが改善するという結果が出たら、保険料に反映されるような未来を描いています。本記事では、健康なApple HealthのユーザーにApple Musicなどのサービスへのディスカウントを提供したり、Apple Pay経由でキャッシュバックするような案についても述べられています。
ワシントン大学医学部が、日々のテキストメッセージを元にメンタルヘルスの状況を判断するAIアルゴリズムを研究中と発表しました。すぐに結論付けたり、物事を必要以上に大げさにとらえたり、〇〇する「べき」、過剰に一般化する、などの表現を主にピックアップしているとのことです。まだ39人しか参加していない研究ですが、臨床医がなかなか観察しにくい点に注目しているため、臨床の補助的に使えるのではないかと期待されています。最近はメンタルヘルスのバイオマーカーの研究が盛んで、声、表情、運動量など様々な要素が評価されていますが、テキストメッセージもその一つとして今後も研究が進みそうです。
去年headspace(瞑想アプリ)とginger(メンタルヘルスオンライン診療)が合併して、軽いメディテーションやセラピーから投薬も含めた治療まで幅広いメンタルヘルスケアを提供するプラットフォームになったことが話題でしたが、ライバルとされているCalmもついに医学的ケアにも参入しました。医療者とのコミュニケーションや処方薬管理のプラットフォームに加え、高血圧・肥満・心疾患・がんなどの慢性疾患患者さんに特化したメンタルヘルスのプログラム開発も進めるとのことです。
大手製薬アストラゼネカは、患者データ等が保管されている社内サーバーへのアクセス権を手違いでGitHub(世界中の人々がプログラムコード等を保存・公開できるウェブサービス)上に、1年以上もの間、公開してしまっていたことが判明しました。大手製薬企業がデジタル戦略を実行するうえでは、これまで取り組んでこなかったプログラミングなども必要となりますが、然るべきルールやインフラが整備されていないと、信頼を失うだけでなく、損害賠償・罰金など膨大なコストがかかってきます。2017年には大手製薬メルクがサイバーアタックで$1 billionもの損害を受けたとされており、ノバルティスやファイザー/ビオンテック等も最近同様の被害を報告しています。今後、ヘルスケア企業がサイバーセキュリティの問題にどのように取り組んで行くかも注目です。