#5 ケアチームの一員となるAIエージェント
🗞ケアチームの一員となるAIエージェント
最近、アメリカのプライマリーケアスタートアップLumerisがTomという名のAIエージェントを発表しました。この事例を見ながら、AIが医療従事者の右腕として支援する時代から、医療プロセスの一部を担いケアチームの一員となる時代へと移行しつつあるなと感じたので、深堀りしてみたいと思います。
初期のヘルスケアAIツールは主に医療従事者の負担軽減を目的とした業務支援にとどまっていました。例えば米国電子カルテ大手Epic社は、カルテ内に医師向けに診療記録を要約し、診療ガイドラインに沿った推奨治療を提示するAI機能を搭載しています。そのほか、今年2月に$250MのシリーズD調達を発表し急速に成長している医療AIスタートアップAbridge は、診察中の会話をリアルタイムで記録・要約し、保険請求も自動的に行ってくれるAIを提供しています。いずれの例も業務効率化に大きく貢献しており貴重なツールですが、あくまで医療従事者の意思決定・業務を支援するものであり、最終判断は人間が行いますし、患者とは直接やりとりしません。
一方、最近登場しているAIエージェントは、患者と直接対話し、より自律的な意思決定に入り込み、医療プロセスの一部担うようになってきました。ここで冒頭のAIエージェントTomの事例に戻ります。
上図の通り、カルテやウェアラブルやガイドライン等様々なデータをインプット→60ものLLMを組み合わせて開発されたエンジンにより処理→next actionの意思決定→患者に連絡を取る・予約を取得する・検査を入れる等の行動を実際に取るというような動きをします。
具体的には
診察・検査予約のスケジュール調整
プライマリーケア医の業務支援
診察時に必要な臨床・非臨床データの統合
患者教育
服薬モニタリング
生活習慣指導
ワクチン・定期健診の管理
退院後のフォローアップ
継続的な遠隔モニタリング+必要時のアラート
等様々なタスクを 24/7動きながら担います。
診療と診療の合間に抜け落ちてしまいそうな痒いところまで対応することで、ケアの連続性を担保し質を向上することが可能です。また、Tomは医療従事者への指示や提案するのではなく、もはやケアチームの一員として自ら行動する点が特徴的であり、従来の部分最適なデジタルソリューションではなく、医療従事者の業務を質・量ともに改善します。
AIの発展に伴いビジネスモデルも変化していくかもしれません。従来の医療機関を受診した際に実施される診断・治療に対してお金を支払うといった出来高モデルから、AIエージェントが患者の継続的なケアを管理し、予防・診療・フォローアップまで一貫してサポートするような個別化されたパッケージに対してサブスクフィーを払うようなモデルもありうるかもしれません。
わかりやすい事例で言うと、著名な医療機関が提供している高額の予防医療パッケージを、AIを活用することで民主化できるというところでしょうか。何百万かの会費を支払うと、フルサービスの人間ドック、日常の医療相談や生活習慣アドバイスなどのコンシェルジュサービス、パーソナルドクターの選定、必要時の大病院受診等、個別化された高品質のケアを受けることは現在でも可能です。これまでは人間のコンシェルジュが実施していたところをAIエージェントが担うことで、このようなフルパッケージのサービスがより多くの人に手が届く価格で提供できるようになるでしょう。今後も、医療AIエージェントの動向とビジネスモデルの変化には注目していきたいと思います。
🔍News
こちらのコーナーでは最近のニュースや面白かった業界コンテンツをご紹介します。
経済産業省から、「ヘルスケアスタートアップと事業会社間の連携・出資・買収のための手引書」がリリースされました(Link)。経産省としてもヘルスケアスタートアップのexit・事業会社との連携の機会をもっと業界として増やしていく必要がある、と発信してくれたのは非常に意義が大きいと思っており、ぜひみなさんとも本件について意見交換させていただけると嬉しいです。
2/28にKicker Ventures × MedVenture Partners × JHIH 共催で”Healthcare Happy Hour with Mayo Clinic Platform”を開催しました。Mayo Clinic Platformが主催するヘルスケアスタートアップ向けアクセラについても解説しておりますので、ぜひこちらのイベントレポートをご一読ください👉(Link)
USの整形外科デジタルヘルスプラットフォームHinge HealthがIPO申請しました(Link)。2014年に創業した同社はウェアラブルセンサーを活用しつつ、オンラインで、個別化されたリハビリを提供しています。2023, 2024年はデジタルヘルス領域のIPOが全くなかったので、どのようなIPOになるか、今後のデジタルヘルスの機運を左右するイベントとしてかなり注目しています。
PEファンドのBlackstoneがCRO大手のシミックの株式過半数取得しました(Link)。先月もBain Capitalが三菱田辺製薬を買収するなど、外資PE×日本ファーマ領域のニュースが目立ちます。
ウェルシア薬局がCare Capsuleを発表(Link)。薬局の店舗内で簡易的な検査や健康相談、管理栄養士によるヘルスケアサービスを提供するなど、アメリカの薬局チェーンが店舗内でクリニックを展開している流れとの類似性を感じます。一方、米国での事例はうまく行っておらず(最近WalgreensはPEファンドに買収されましたし他社でも医療事業は不調)、ウェルシアさんにはぜひ予防医療・地域医療の良い事例となってほしいと思います。
米国の創薬AIプラットフォームInsilico Medicineが資金調達と創薬支援ロボットの開発をリリースしました(Link)。個人的にも最近ウェットな科学実験×AIロボティクスの領域に関心があるので面白いニュースです。
🌟ベイエリア在住の読者の方がいらっしゃれば・・・
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