#2 医療+バイオLLM・AIの最新
こんにちは。おかげさまで第2号も無事配信することが出来ました。登録いただいている皆様ありがとうございます!
前回号も今年注目している投資テーマとしてヘルスケアagenticAIについて述べましたが、本格的に医療AIが普及する変曲点となる2025年は駆け出しから医療AI最新トピックが豊富です。今回は医療に加えてバイオAIも深堀りさせていただきますので、ぜひお楽しみください。
🗞医療LLM・医療機関向けAIの最前線と普及に向けたハードル
医療AI分野の普及が国内外で大きく動き始めています。米国では、Hippocratic AIが$141MのシリーズBを調達し、ユニコーン企業となりました。同社は安全性を重視した医療特化型LLMの開発に注力しており、著名な医療機関に導入が進んだり、医師が自分でagentを開発し販売できるようなapp store的なマーケットプレイスを展開するなど、普及と医師への価値還元への徹底が見受けられます。(関連して、Coalis久保田さんのこちらのツイートも大変勉強になります)。また、Qventusは$105Mを調達し、評価額$400Mに到達。特に医療事務・医療スタッフ業務支援、オペ室運営、退院調整支援などで成果を上げています。
一方、日本でも政府主導での医療特化型LLM開発が本格化しています。自治医科大の永井良三学長をトップとするチームには、国立情報学研究所や情報・システム研究機構、東京大、神戸大、九州大など約40の研究機関・民間企業が参加し、医療分野に特化した日本語LLMの開発プロジェクトが始動しました。医療現場特有の専門用語や文脈を理解し、国内の医療現場に寄り添う形で、信頼性の高いAIの実現を目指しています。国内ではLLMの開発を進めるのと同時に、医療現場での導入摩擦をいかに軽減していくか、現状のシステムとの統合も含めて大きな課題があると認識しています。(また、VCとしては投資機会があると思っています)
日本の医療機関向けAIの発展のために、以下は個人的に注目しているポイントです:
医療特化型である強みを最大限尖らせる:
医療倫理や規制への準拠、安全性への配慮、医療現場での意思決定スキームを十分に組み込んだモデル設計が求められます。極限まで尖らせなければ、他モデルも日々進化を遂げる中それだけでも一定水準機能は十分という話になると思います。医療機関側のインフラ設計:
医療AIを活用したいとなっても、医療機関全体としてのAI導入戦略の策定、現場スタッフへの適切な教育・トレーニング、そしてデータガバナンス体制の整備が必要となります。また継続的な精度検証と品質管理体制の確立も欠かせません。となったときに、国全体で医療機関のプロトコールを設定しながら導入ハードルを下げていく活用が必要と考えています。現場医療従事者の開発への巻き込み:
今回Hippocratic AIの事例でもわかるように、現場の医療従事者にいかに役立つものにできるか、経済的メリットもあるものにできるか、というのは非常に重要な点だと思っています(特に後者は国内だとハードル高いですが)。DTx全般に言えますが、開発しても普及しなければどうしようもありません。開発段階から普及も見据えた設計作りには個人的にも注目しています。
🗞バイオLLMの台頭
ヘルスケアだけではなくバイオLLMの話題も急増しているので以下直近の情報をいくつかまとめます:
まずはOpenAIの事例ですが、特に老化研究に特化したAIモデル(GPT-4b)の開発を発表しました。Sam Altmanが出資しているlongevityの会社Retro社とともに、山中因子より効率よくリプログラミングできる転写因子を提案してくれるLLMを開発しているとのこと。なんと初期的な研究では山中因子より50倍(!?)も活性が高いとのこと。
2例目としては、フランスのBioptimusというスタートアップが$41Mの調達を発表し、生物学向けLLMを開発するとのこと。これまでは病理のモデルを開発していましたが、今回の調達を踏まえてさらに医療、バイオ、美容等幅広く応用できるマルチモーダルなモデル開発を企図しています。同社は既存の生物学的データを基に、新しい治療ターゲットの同定や、薬剤設計の効率化を目指しています。
その他バイオLLMを開発している会社としてはEvolutionary Scaleも注目を集めています。同社はかなりタンパク質に注力しているモデルで、アミノ酸配列から構造から機能まで、新たなたんぱく質をデザインすることが可能になります。
以上のようなバイオLLMの台頭を踏まえ、今後はさらなるマルチモーダル化(遺伝子配列、タンパク質構造、実験データ、臨床データなど)や創薬プロセスの変革にさらに注目して投資活動も行っていきたいと思っております。
🔍News
こちらのコーナーでは最近のニュースや面白かった業界コンテンツをご紹介します。
emol株式会社シリーズA調達
先日emolのシリーズAラウンドに参加させていただきました(PRTimes)。同社はメンタルヘルス領域における治療用アプリ開発×医療サービスの提供を通じて、次世代のメンタルヘルス医療モデルを構築されようとしている会社です。詳しい事業内容や投資の背景については、Spotifyで配信中のポッドキャストでも語らせていただいておりますので、ぜひご視聴ください。イーライリリー、a16zと共同で$500Mのバイオテックファンド設立
出資はイーライリリー、運営はa16zとのこと。日本のCVCでも多い二人組合のようなモデルなのでしょうか、気になります。(Fierce Biotech記事)創薬company creationの素晴らしい事例
強いチーム×巨額資金調達が最近のバイオcompany creationでは話題ですが、そんな素晴らしい事例を日本発で実現している、AN Venturesさんが出資しているCity Therapeuticsの詳細です。(”日経バイオテク:Alnylam社の創業者が参画するCity社、日本発技術取り入れ次世代のsiRNA創薬”)ヘルスケア投資家橋爪さんpodcastご紹介
ヘルスケア領域で多くの投資実績をお持ちのBeyond Next Ventures橋爪さんとThe Medical AI Times編集長岡本さんの対談podcastです。医師起業家の可能性を感じる素晴らしいエピソードなのでぜひご視聴ください。(The Medical AI Times Podcast: 【ゲスト:Beyond Next Ventures 橋爪 克弥氏】 "強い投資家"が見据えるDeepTechの新潮流 #10 )経産省×JHIHイノベーションハブサミット2025の開催報告
先日、経産省InnoHubとJHIHの共催によるイノベーションハブサミット2025を開催しました。基調講演では東京科学大学の飯田香緒里先生による大学発医療イノベーションについてのお話、Medii×日経メディカル、InnoJin×イマクリエイト×住友商事、テックドクター×第一三共による具体的な協業事例の共有など、示唆に富む内容となりました。24名によるミニピッチと交流会を含め、総勢200名が参加する充実したイベントとなり、医療イノベーションエコシステムの着実な発展を実感する機会となりました。開催レポートはこちらです。
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